高崎経済大学 第7回特別講義 開催報告:ゼロから築く私の仕事 ゲスト講座 大橋由香氏

高崎経済大学の特別講義「世界と日本の未来を考える2.0」では、学生一人ひとりが「自分らしく生きるとは何か」を探求する学びが展開されている。今回の講義では、料理研究家であり経営者としても活躍する大橋由香氏をゲストに迎え、キャリアの転機や起業の経緯、そして「好きなことを仕事にする」リアルなストーリーを通して、学生たちが自らの人生観や将来像を深めていく時間となった。

目次

2. ゲスト講師・大橋 由香氏による講演
――「やりたいことがわからなかった私」が、自分の道を見つけるまで

今回の講義では、料理研究家であり、飲食店の経営、レシピ本の執筆、SNSやYouTubeでの情報発信など、多方面で活躍する大橋 由香氏をゲストに迎えた。10代・20代の頃は「自分のやりたいことがわからなかった」と語る大橋氏が、どのようにして“自分の生業”を見つけていったのか。進路の選択から結婚・出産、そして起業まで、自らの人生の歩みを率直に語るその姿に、学生たちは引き込まれていった。

内向的な幼少期と、高校時代の挫折

講演は、大橋氏の意外な自己紹介から始まった。今でこそ明るく前向きな印象を受ける彼女だが、「実は小中高と内向的で、いわゆる“陰キャ”だった」と語る。特に小学生時代は1人で石を蹴りながら帰るような日々を送っていたという。

さらに高校時代には両親の離婚が影響し、不登校になりがちだったこと、進学への意欲を持てなかったことも率直に語られた。「みんなが大学を目指している中、自分には無理なんじゃないか」と感じ、周囲に流されるのではなく、自分の「好きなこと」を軸に進路を考え始めたという。


専門学校進学の決断と、「300万円のプレゼン」

料理が好きだったという原点に立ち返り、調理師の専門学校へ進学することを決意。その際、授業料約300万円の捻出にあたっては、祖父に自らプレゼンを行い、支援を得た。「自分で調べて、塾に行きたい理由を母にプレゼンしたこともある」というエピソードも紹介され、大橋氏の“芯のある行動力”が垣間見える場面だった。

専門学校ではフランス料理を専攻し、フランス語の基礎も学習。フランス料理を選んだ理由については「体験入学の数時間で“かっこいい”と思って、すぐ決めた」と語り、行動の速さと直感を信じる姿勢が印象的だった。

就職と過酷な修業時代:好きなことでも「死にたいほど辛かった」

専門学校卒業後、大橋氏は偶然訪れたフレンチレストランの味に感動し、その場で翌日の面接を申し出て就職。しかし、その職場は典型的な“ブラック企業”だった。朝6時から夜10時まで働き、週1休み、手取り13万円という過酷な環境で、「大学生が羨ましくてたまらなかった」と当時の心境を振り返った。

しかし、この経験も後に活かされる。「毎日、3人分のまかないを作らされるのが本当に苦痛だったけど、レパートリーのなかった私が工夫する力を身につけられた」と語り、逆境を乗り越える中で培われた力がその後のキャリアを支えることとなる。

結婚・出産と、専業主婦の孤独

レストラン閉店後、大橋氏は24歳で結婚し、子どもを授かる。だが、結婚当初は「専業主婦になれば楽になると思った」「子どもができたときは嬉しさよりも絶望が大きかった」と語るなど、その経験は決して理想どおりではなかった。

「話し相手が夫とドラッグストアの店員だけだった」と語る育児初期の孤独、専業主婦として認められない現実に、「本当に自分は何をしたいのか」を考え直すきっかけとなった。


ブログ発信の開始と「ずるい」という感情から始まった挑戦

子育て中、自宅にいながら社会とつながりたいという思いから、大橋氏は料理ブログを開始。最初は「稼げるはずがない」と思っていたが、他の主婦ブロガーがアフィリエイトで収入を得ていると知り、「ずるい」と感じたことが原動力になったという。

やがてコンテスト入賞、企業案件、YouTube配信など、活動の幅が広がっていった。自身のキャラを「ハルヒちゃん」として演出し、明るい人格を演じながら発信を続けるうちに、「実際の自分もそのキャラに近づいていった」と語った。このプロセスは、自己変容と情報発信が交差する興味深い実践例となった。


飲食店の開業と“自立”のはじまり

その後、自宅カフェ「ハルヒごはん」を開業。当初は売上が不安定で、「自分の給料が月20万円、そのうち10万円を家庭に入れていた」というリアルな経営状況も共有された。事業拡大に際しては、日本政策金融公庫から600万円を融資で調達し、次第に料理教室や出版へと活動を展開。さらに店舗を3倍の規模に拡大する際には2500万円の融資を自分の名前で受けるなど、挑戦を重ねてきた。

「ただ好きなことをやるだけでは続かない。経営や数字のことも勉強しなければいけない」と語り、自身の中に芽生えた“自立”への思いが、その後の行動を支えていることが印象的だった。


発信が「自分の強み」と「社会のニーズ」をつなげた

発信を続ける中で、特定の調理器具(ストウブ鍋)に惹かれたことがきっかけとなり、企業とつながるチャンスが訪れる。企業側から直接声がかかり、レシピ本出版へとつながっていく。

また、InstagramやYouTubeを活用し、オンライン料理教室では3000円のサブスクリプションで400人規模の会員が集まる仕組みも構築。YouTubeも最初は赤字だったが、「続けたことで今でも月5万円以上の収益が自動的に入ってくる」と語った。

「やりたいこと」は準備段階にも意味がある

講演の終盤、大橋氏は「やる気が出ない時期もあるが、それは“次に跳ねるための準備段階”」だと語った。石垣島に民泊用の物件を借りたという最近の挑戦についても紹介され、「旅先で“料理できる場所”がもっとあったらいいな」という自分の気づきを、すぐに行動に移す柔軟さが印象的だった。

このように、「特別な才能があったわけではない」と語る大橋氏だが、自分の違和感や興味に丁寧に向き合い、行動し続けてきた姿は、学生たちにとって非常にリアルで等身大のロールモデルとなった。

3. 学生との対話・質疑応答と内省の時間
――「変わるきっかけ」は、誰かに言われてではなく、自分で見つける

講義の後半では、大橋 由香氏の講演を受けて、学生たちが感想や気づきをシェアし、直接質問を投げかける対話の時間が設けられた。話し手のリアルな人生経験に触れたことで、自分自身の進路や日常に照らし合わせた問いが多く生まれた。

「自分の好きがわからない」学生の声に向けて

ある学生からは、「自分の“好き”がわからないときは、どうすればいいですか?」という問いが寄せられた。それに対し、大橋氏は「わからなくても焦らなくていい。好きなことって、やってみないとわからないから、まずは行動してみることが大切」と応じた。

加えて、「好きの芽は小さくて気づきにくいもの。たとえば“ちょっと楽しい”と思うことを無視しないで大事にしてほしい」と語り、学生たちの“気づきの感度”を高めるよう促した。

「自分にしかできないこと」はどう見つける?

また別の学生からは、「自分にしかできないことをどうやって見つけましたか?」という問いが出された。これに対し、大橋氏は「“これしかできない”と思っていた料理が、実は“自分だからこそできる料理”に変わった」と述べた。

ブログを続ける中で、同じ器具を使った投稿でも、自分の工夫や語り口があることで「誰かにとって必要な存在」になっていったという経験を紹介し、「自分らしさは、発信し続けることで見えてくる」と伝えた。

自分の過去を「肯定」できるようになるまで

講義の最後には、今も悩みを抱えている学生たちへ、大橋氏から次のような言葉が送られた。

「高校生の頃の私は、将来まさか人前で話すようになるなんて思ってもいませんでした。でも、あのときの私も、今の私も、全部つながっている。あの頃の自分がいたから今がある。だから、“過去の自分”も、どうか否定しないでいてほしい」

この言葉に、多くの学生が深く頷きながら耳を傾けていた。

この言葉には、氏自身が過去に感じた苦しみや悩み、そしてそれを乗り越えようとした積み重ねがにじんでいた。学生にとってこの講義は、“誰かに言われたからではなく、自分自身の意志で生きる”という視点を得るきっかけとなった。

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